コミュニケーション能力、という便利な言葉

去年、私は会社でエンジニア採用を担当しておりました。 採用活動の中で、ジョブディスクリプションを書いたり、スカウトを送ったり、面接をする中で、非常に多くの気づきがありました。

ちょうど今日、久しぶりに採用面接にサブで出席する機会がありました。その中で去年の気づきを思い出したので、書き残していこうと思います。

就活生を悩ませる問い

採用においてコミュニケーション能力を大事にする会社は多いと思います。 様々な人事担当者に対するアンケートの結果を見ても、コミュニケーション能力という項目は上位にランクインしていることが多いです。

私が、企業がコミュニケーション能力を大事にしていることを知ったのは、大学時代、就活のことをおぼろげに意識し始めたタイミングでした。

ただ、その時は、文字面が抽象的すぎて、本質的な意味が掴めませんでした。 新卒採用では、グループディスカッションというものがあり、そこでコミュニケーション能力を見ているのだろうということは何となくわかりました。

もっとも安直な発想では、"発言が論理的でありながら、他人の言葉を理解できて、グループディスカッションで会話をオーケストレートできる"といった能力をイメージするかもしれません。

実際に、グループディスカッションの場や、採用面接の場では、会話をリードしたがる人がよくいます。

でも、よくよく考えると、みんなが会話をリードしたがっているチームは上手く行かなそうです。そのため、その安直な発想は、少し真実とは異なるように思います。

「企業が候補者に求めているコミュニケーション能力とは何か?」という問いは、就活生が一度は向き合う問いだと思いますが、例に漏れず私もその一人でした。

私が採用担当者をする中で気づいたこと

私が、エンジニア採用の担当者になって最初に手をつけたのが、採用要件をまとめるという仕事でした。そこで、一番初めに思ったのが、「一緒に働きやすい人にきてほしいな」、ということでした。 もっと具体的にいうと、話のテンポが合うとストレスなく一緒に働けるだろうなとか、あまり難しい言葉を使われると困るなとか、言葉の端々に圧力を感じる人は嫌だなとか、そういうことです。

ただ、これらは、とても言葉にしずらいです。

感覚的だから言葉にしにくいという側面もありまずが、それを直接書いたり伝えるのは憚られるという側面の方が大きいと思います。面接の場でも、「話のテンポが合わないですね」とか言いずらいですよね...

私が採用担当をしている中で得た最も重要な気づきは、定量的っぽくてもっともらしい言葉が使われていても、その裏にはとても人間的な欲求があるのだということです。

私が感じていたのは、自分の安全に対する欲求です。 他にも、新入社員から刺激を得たいとか、自分のレベルを引き上げてくれそうといった成長欲求があります。 また、その人を採用して社内で活躍してもらうことで、自分自身が採用担当者として評価されたいといった、承認欲求もあると思います。

そういう、直接書いたり伝えたりするのが憚れる欲求が、"コミュニケーション能力"という文字面に押し込まれるのだろうと思います。

知は力なり

これに気づいた時、私は、なーんだ..そんなことか...とずっこけたあとに、私自身の振る舞いを改ねばと思うようになりました。

私が安心して働きたいと思っているのと同じように、同僚もおそらく同じことを考えています。 また、同僚は私が思っていないような欲求を持っている可能性も高いです。

だから、同僚が言葉に出しずらいことを理解しようと努めながら、必要があればそれを満たせるように振る舞おうと意識するようになりました。

本質的には、そういう姿勢のことをコミュニケーション能力と呼ぶのだと私は理解しています。

そういう意味のコミュニケーション能力は、外見上の振る舞いだけは達成されず、自分の脳にこびりついた思考プロセスや、自分が育ててきた個性や、他人の気持ちを察知する能力とか、簡単には変えられない要素を多く含んでいます。

そのため、コミュニケーション能力は長い時間をかけて向上させていくものです。また、どうしても変わらない部分はあるため、自分と相性が良い人や企業を探すのも大事だと思います。

最後に

本業とは違うロールにチャレンジすると、こういう新しい発見があってとても楽しいです。 今後も、好き嫌いせずに、様々なお仕事にチャレンジしたいものです。 今の会社はこういう機会に恵まれているので、大変ありがたいです。感謝。